始まりは「申請書づくりが面倒すぎる」という個人の悲鳴

ミドリ(confused): タツヤさん、今日は「シンセイメーカー」っていう実際に作ったサービスの話を聞けるんですよね。脱エンジニアの視点で考えると、ITが苦手な人でも自分の困りごとをサービスにできるのか、が気になります。

タツヤ(nodding): うん、今日は教科書的な話じゃなくて、僕らが本当に困って、本当に作った話をするよ。きっかけはね、東京・港区の「ベビーシッター利用支援(一時預かり)」っていう制度の申請なんだ。

ミドリ: 補助金みたいなものですか?

タツヤ: そう。ベビーシッターを使った分の料金を、区が一部補助してくれる制度。ありがたいんだけど、申請がとにかく面倒でね。シッターのアプリ(KidsLine)から領収書のPDFが何枚も出るんだけど、それを見ながら「利用内訳表」っていう区の指定Excelに、子どもごと・月ごとに、利用日・事業者・開始時刻・終了時刻・税抜料金を手で打ち込んでいく。

ミドリ(surprised): 手で……!? それ、何枚もあったら地獄ですね。

タツヤ: しかも厄介な決まりがあって。「夜間」の時間は 22時〜翌7時 で計算するルールなのに、シッターアプリの夜間割増は 18時〜翌9時 と範囲が違う。だから単純に転記しちゃダメで、区のルールで計算し直す必要がある。日付をまたぐ預かりもあって、終了時刻を「31時」みたいに書く独特の様式まである。

ミドリ: 聞いてるだけで頭が痛くなってきました……。

タツヤ: 毎月これを手作業でやると、ミスは出るし、時間は溶けるし、確認も大変。「これ、Claude Codeにやらせたら一発じゃないか?」って思ったのが、すべての始まりだったんだ。

第1幕:まず「自分のパソコンで動く道具」を作った

ミドリ: で、Claude Codeに何をお願いしたんですか?

タツヤ(nodding): 最初のゴールはシンプル。「領収書PDFを渡したら、区の様式のExcelを自動で作る道具」を、自分のパソコンの中に作ること。プログラミング言語でいうと Python(パイソン) で書いた。

ミドリ(confused): Pythonって、よく聞くけど何がいいんですか?

タツヤ: ざっくり言うと「事務作業の自動化が得意な言語」。PDFを読む道具(pypdf)と、Excelを作る道具(openpyxl)っていう、出来合いの部品が揃ってる。Claude Codeに「KidsLineの領収書PDFを読んで、港区の利用内訳表Excelを子どもごと・月ごとのタブで作って」と日本語で指示したら、300行くらいのプログラムを書いてくれた

ミドリ: 300行……それ、人間が書いたらどれくらいかかるんですか?

タツヤ: PDFの細かい癖(空白の入り方とか)を調べながらだと、慣れた人でも丸1〜2日。素人なら何日かかるか分からない。それが、会話しながら半日で動くところまでいった。実際に手元の領収書7枚で試して、子ども4人分の内訳表が正しく出ることまで確認できたよ。

ミドリ(smiling): すごい。もうそれで完成じゃないんですか?

タツヤ: ……と思うよね。でも、ここに大事な落とし穴があるんだ。

なぜ「AIに丸投げ」じゃなく「決定論パーサ」にしたのか

ミドリ: 落とし穴?

タツヤ(nodding): ひとつ、設計で強くこだわったことがある。PDFを読み取る部分に、AI(生成AI)を一切使っていないんだ。

ミドリ(confused): え、せっかくAIで作ってるのに、AIを使わない? 矛盾してませんか?

タツヤ: いい引っかかりだね。区別しよう。「道具を作るのにClaude Code(AI)を使う」のと、「完成した道具が動くたびにAIを呼ぶ」のは別の話なんだ。

ミドリ: ……どういうことですか?

タツヤ: たとえば請求や補助金の申請って、お金が絡む書類でしょ。ここで毎回AIに「このPDF読み取って」とお願いすると、3つ困ることが起きる。

ミドリ(nodding): たしかに。お金の書類で「AIがなんとなくそう読みました」じゃ通らないですね。

タツヤ: そう。だから読み取りは、決まったルール通りに必ず同じ答えを出す仕組み(決定論パーサ)にした。「ご利用料金合計の行から税抜金額を取る」みたいに、人間が説明できるルールだけで動く。AIは"作る側"に徹して、"動かす側"はカッチリした普通のプログラムにする——この線引きが、業務ツールではすごく大事なんだ。

ミドリ: 「AIで作るけど、AIに依存しすぎない」。覚えておきます。

第2幕:でも、これじゃ「自分しか使えない」

タツヤ(nodding): さて、自分のパソコンでは完璧に動く道具ができた。でも、ここで僕は気づくわけ。「……これ、妻のパソコンでは動かないな」って。

ミドリ: あ。Pythonを入れたり、コマンドを打ったりが必要だから。

タツヤ: そう。自分用のツールって、動かすのに「黒い画面(ターミナル)」を開いて呪文を打つ必要がある。僕はいいけど、家族には無理。ましてや、同じ制度で困ってる港区の他のパパママには絶対に届かない。

ミドリ(thinking): せっかく便利なのに、自分1人しか使えないのはもったいないですね。

タツヤ: これがすごく大事な分岐点なんだ。「自分用のスクリプト」と「みんなが使えるサービス」のあいだには、深い谷がある。多くの人は、自分用ツールを作った時点で満足して、この谷を渡らない。でも、谷を渡ると価値が一気に何十倍にもなる。

ミドリ: その谷を、どうやって渡るんですか?

タツヤ: ここで登場するのが Cloudflare(クラウドフレア) なんだ。

第3幕:Cloudflareに載せ替えて「ブラウザで使えるサービス」に

ミドリ(confused): Cloudflare……名前は聞いたことありますけど、何者ですか?

タツヤ(nodding): ものすごく雑に言うと「自分のプログラムを、世界中からアクセスできるインターネット上に、サーバー管理なしで置ける場所」。普通、Webサービスを公開するにはサーバーを借りて、設定して、メンテして……と大変なんだけど、Cloudflareはそのへんをほぼ全部肩代わりしてくれる。しかも小規模なら無料、ちょっと本格的でも月$5(700円くらい)から。

ミドリ: 月700円でサービスが公開できるんですか!?

タツヤ: そう。だから個人や中小企業と相性が抜群なんだ。仕組みはこの3つの部品でできてる。難しい名前だけど、役割だけ掴めばいい。

部品役割(たとえると)
Workers(ワーカーズ)プログラム本体が動く場所。「無人の受付&作業員」
D1(ディーワン)データの保管庫。「会員名簿の引き出し」
R2(アールツー)ファイルの保管庫。「アップロードされたPDFをしまう倉庫」

ミドリ: 受付さんと、名簿の引き出しと、倉庫。それなら分かります。

タツヤ: この3つを組み合わせると、「ブラウザでアクセス → 会員登録・ログイン → PDFをアップロード → 子どもの名前が表示される → ボタンを押すとExcelがダウンロードできる」っていう、ちゃんとしたWebサービスになる。黒い画面も呪文も、利用者側には一切いらない。

「Pythonをそのまま載せる」じゃなかった——移行の勘所

ミドリ(thinking): ひとつ疑問が。せっかくPythonで作ったのに、それをそのままCloudflareに載せたんですか?

タツヤ: ここが一番おもしろいところ。実は載せ替えていないんだ。Cloudflareの上では、Python(とそのExcel部品)はちょっと動かしづらい。そこでClaude Codeに、同じ読み取りルールを、Cloudflareが得意な言語(TypeScript)に「翻訳」してもらった。PDFを読む部品も、Excelを作る部品も、Cloudflareで動くものに置き換えてね。

ミドリ(surprised): プログラムの「翻訳」ですか。それも人間がやったら大変そう……。

タツヤ: めちゃくちゃ大変。言語が違えば書き方も部品も全部違うから。でも「このPythonのロジックをそのままTypeScriptに移して」とClaude Codeに頼めば、意味を保ったまま書き換えてくれる。しかも「元のPythonと同じ答えが出るか」を見ながら直していける。ここは、AIがいなかった時代だと一番心が折れる作業だったんだよ。

ミドリ: なるほど。Pythonは「ローカルでサッと試す用」として残しつつ、Web版は別言語で——っていう二刀流なんですね。

タツヤ(nodding): その通り。手元で素早く検証する用(Python)と、みんなに公開する用(Cloudflare/TypeScript)を、同じルールで両方持っておく。検証はラクに、公開は本格的に。いいとこ取りだ。

あなたの業務にも効く「7ステップの橋渡し」

ミドリ: この「自分用ツール → みんなのサービス」の流れ、うちの会社の作業にも当てはめられますか?

タツヤ(nodding): まさにそれを持って帰ってほしい。今回の話を、業種を問わず使える7つのステップに整理したよ。

  1. 手作業の苦行を1つ選ぶ — 「PDFを見ながらExcelに転記」みたいな、毎回発生する定型作業。
  2. Claude Codeでまず自分用ツールを作る — 日本語で指示して、手元で動く道具にする。
  3. お金・正確さが絡む部分はAIに依存させない — 決定論パーサで「いつも同じ答え」にする。
  4. 手元のデータで検証する — 実物(今回は領収書7枚)で正しさを確認。
  5. Cloudflareに載せ替えて公開する — 受付(Workers)+名簿(D1)+倉庫(R2)。
  6. ログインとファイルの扱いを安全にする — 個人情報は分離保管、ダウンロードは本人だけ。
  7. 同じ困りごとを持つ人に届ける — 自分の道具が、みんなの資産になる。

ミドリ: ステップ1〜2が「自分用」、5〜7で「みんなのサービス」に化けるんですね。

タツヤ: そう。そしてこの谷を渡る作業こそ、昔は専門のエンジニアが何週間もかけていた部分。それがClaude Codeで一気に短くなった。これが今、個人や中小企業に起きている一番大きな変化なんだ。

こだわった「壊れない工夫」と「安全」

ミドリ: お役所の様式って、レイアウトや計算式が細かいですよね。それ、プログラムで壊れたりしないんですか?

タツヤ(nodding): 鋭い。ここで使った工夫が「テンプレ12面方式」。区の正式なExcel様式は、数式や書式がびっしり入ってて複雑なんだ。プログラムで一からシートを組み立てると、ほぼ確実にどこか壊れる。

ミドリ: じゃあどうしたんですか?

タツヤ: あらかじめ1年分(12か月)の空っぽの正式様式を用意しておいて、プログラムは「必要な月だけ数字を埋めて、使わない月のシートを消す」だけにした。数式や書式は様式側がそのまま持ってるから壊れない。日中・夜間の時間計算や合計は、様式に元から入ってる数式に任せる。「プログラムは値を入れるだけ、計算は様式がやる」——役割分担だね。

ミドリ(smiling): 無理に全部プログラムでやらない。賢いですね。

タツヤ: 安全面も大事にした。アップロードされるのは子どもの名前が入った領収書=個人情報だからね。3つの線を引いてる。

ミドリ: 「保管・鍵・権限」。個人情報を扱うサービスの基本セットですね。

完成したのが「シンセイメーカー」です

タツヤ(nodding): そうやって出来上がったのが、シンセイメーカー 🐣。港区のベビーシッター利用支援(一時預かり)の「利用内訳表」を、領収書PDFをアップロードするだけで自動で作ってくれるWebサービスだよ。

ミドリ: どこで使えるんですか?

タツヤ: ここ。

🐣 シンセイメーカー — KidsLine の領収書PDFから、港区ベビーシッター利用支援(一時預かり)の「利用内訳表」Excelをワンクリックで自動作成。 👉 https://shinsei-maker.shimanto.com/ 会員登録(メール+パスワード)→ 領収書PDFをアップロード → 検出された子どもの名前ごとに、月別タブのExcelをダウンロード。夜間時間の計算も日付またぎの様式も自動。手作業の転記とサヨナラできます。

ミドリ(smiling): 港区で同じ制度を使ってるパパママには、まさに神サービスですね……!

タツヤ: ふふ。しかも作りはあえて様式に依存しない設計にしてあるから、将来ほかの自治体の様式や、ほかのシッター会社の領収書にも広げやすい。「ひとつの困りごと」から始めて、横に広げていけるんだ。

まとめ:Claude Codeは「道具づくり」と「サービス化」を地続きにする

ミドリ: 今日の話、すごく腑に落ちました。最後にまとめてください。

タツヤ(nodding): 5つにまとめるね。

  1. きっかけは個人の苦行でいい — 「PDF見ながらExcelに手入力」みたいな身近な作業がスタート地点。
  2. Claude Codeでまず自分用ツールを作る — 日本語の指示で、半日で動くものができる。
  3. お金・正確さが絡む部分はAIに依存させない — 決定論パーサで「いつも同じ答え」に。
  4. Cloudflareで谷を渡る — 自分用スクリプトを、月数百円で「誰でも使えるWebサービス」に。昔は専門家が何週間もかけた部分が一気に縮む。
  5. 壊れない工夫と安全を最後に乗せる — 様式は壊さず(テンプレ方式)、個人情報は守る(保管・鍵・権限)。

ミドリ: 「自分用ツール」で止めずに、「みんなのサービス」まで持っていく。そこに一番の価値があるんですね。

タツヤ(nodding): そう。そして大事なのは、これは特別な天才エンジニアの話じゃないってこと。困りごとを言葉にできて、Claude Codeと対話できれば、あなたの会社の「あの面倒な手作業」も、同じ流れでサービスに化けられる。シンセイメーカーは、その一番分かりやすい実例なんだ。

ミドリ(smiling): まずは「うちのいちばん面倒な手作業」を1つ書き出すところから、ですね。

タツヤ: それだよ。そこさえ決まれば、あとは一緒に谷を渡るだけ。


Shimanto AI Solutionsからのご案内 「シンセイメーカー」( https://shinsei-maker.shimanto.com/ )は、当社がClaude Codeで実際に開発・運用しているサービスです。当社は、こうした 「PDF→Excel」「定型書類づくり」といった手作業を、自分用ツールから誰でも使えるWebサービスまで一気通貫で形にする 支援を行っています。「うちのこの作業も自動化・サービス化できる?」というご相談は、業務を金額換算する無料のROI診断からどうぞ。