「AI生成」表示は、どこまで書けばいいのか?
ミドリ: タツヤさん、社内で議論になっていることがあって。AIで作ったものには全部「AI生成」と書くべきか、という話です。
タツヤ(nodding): 議論になる論点だね。「全部書けば安全」は、実は正解じゃないんだ。
ミドリ(surprised): 書きすぎもダメなんですか?
タツヤ: ダメというか、意味が薄れる。全部に書いてあると、本当に必要な場面での表示が埋もれる。それに、社内でも「とりあえず書いとけばいい」という思考停止が起きる。
ミドリ: じゃあ、どう判断すれば……。
タツヤ: 3つの軸で見るとすっきりする。今日はそれを整理しよう。
3つの判断軸
タツヤ: 混乱の原因は、性質の違う3つのルールを一緒くたにしていることなんだ。
| 軸 | 何のルールか | 判断のポイント |
|---|---|---|
| ①プラットフォーム規約 | 各SNS・サービスの利用規約 | リアルな画像/動画をAIで作ったか |
| ②広告・表示の適正さ | 景品表示法など | 事実と違う印象を与えていないか |
| ③ステマ規制 | 広告であることの明示 | 広告なのに広告と分からない形か |
ミドリ(thinking): これ、全部別々のルールなんですね。
タツヤ: そう。①はAIかどうかの話、②は内容が正しいかの話、③は誰が言っているかの話。AI表示の議論が混乱するのは、この3つが同じ会話に混ざるからなんだ。
①プラットフォーム規約 — AIかどうか
ミドリ: まず1つ目からお願いします。
タツヤ: 主要なSNSは、リアルに見える画像・動画・音声をAIで生成または大幅に改変した場合、その旨の表示を求める方向で運用している。守らないとリーチ制限やアカウント措置につながる可能性がある。
ミドリ: 文章はどうなんですか?
タツヤ(thinking): 文章については、現状そこまで厳格に求められないことが多い。焦点は「本物と見分けがつかない映像・画像」に置かれている。
ミドリ: なぜ映像だけ厳しいんですか?
タツヤ: 誤認の危険度が違うからだね。文章は「誰かの意見」として読まれるけど、写真や映像は「事実の記録」として受け取られる。だから偽の映像のほうが社会的な害が大きい。
実務での線引き
タツヤ: うちが推奨している基準はこう。
| 対象 | 表示 |
|---|---|
| 実在の人物・場所・出来事に見える画像/動画 | 必ず表示 |
| リアルな商品写真に見える生成画像 | 必ず表示 |
| イラスト・図解・抽象的なビジュアル | 不要(見て明らかにイラストなら) |
| AIが下書きした文章を人が仕上げたもの | 不要 |
| AIが全部書いた文章をそのまま出す | 業務ではそもそも出さない |
ミドリ(smiling): 最後の行が一番大事な気がします。
タツヤ: そこなんだよ。表示するかどうかを悩むより、そのまま出さない運用にするほうが早い。人が確認して手を入れれば、それは自社の発信物になる。
②広告・表示の適正さ — 内容が正しいか
ミドリ: 2つ目は景品表示法の話ですね。
タツヤ(nodding): ここが本当は一番怖い。AIで作ったかどうかは、まったく関係ないんだ。
ミドリ(confused): 関係ない?
タツヤ: 問題になるのは「実際より著しく優れていると誤認させる表示」かどうか。AIで作ろうが手書きだろうが、内容が事実と違えば同じように問題になる。
ミドリ: つまり「AIが書いたので」は言い訳にならない。
タツヤ: ならない。発信した会社の責任。ここは断言していい。
特に危ないパターン
タツヤ: AI活用で起きやすい事故を4つ挙げると、
- 効果の断定 — AIは「〜が期待できます」を「〜が実現します」に書き換えがち
- 数値の創作 — 根拠のない「30%削減」がしれっと入る
- お客様の声の生成 — 実在しない感想を作るのは論外。絶対にやらない
- ビフォーアフター画像の生成 — 実際にない効果を映像で示すことになる
ミドリ(surprised): 数値の創作、ありそうです……。
タツヤ: これが一番多い事故だと思う。だから「数字が入っている文はすべて出典を確認する」というチェックを入れる。自社の実績なら社内記録、外部データなら調査元。確認できない数字は消す。
ミドリ: 確認できないなら書かない、と。
タツヤ(nodding): そう。書かないことで失うものは、ほとんどない。逆に、根拠のない数字ひとつで会社の信用が傷つく。割に合わないんだ。
③ステマ規制 — 誰が言っているか
ミドリ: 3つ目は、AIとどう関係するんですか?
タツヤ: 直接は関係しないんだけど、AIで大量に投稿を作れるようになったことで起きやすくなった問題があってね。
ミドリ: どういう問題ですか?
タツヤ: たとえば、社員が個人アカウントを装って自社商品を褒める投稿をAIで量産する。これは広告なのに広告と分からない形なので、規制の対象になりうる。
ミドリ(thinking): 手作業だとやりにくいことが、AIだとできてしまう。
タツヤ: そこが怖いところ。手間がブレーキになっていた行為が、手間ゼロになると起きやすくなる。だから社内ルールで先に禁止しておく必要がある。
- 自社に関する投稿は、関係者であることを明示する
- 第三者に依頼する場合は、広告表記を必須にする
- レビューや感想を生成しない
ミドリ: シンプルなルールですね。
タツヤ: シンプルでいい。複雑なルールは守られないからね。
脱エンジニアの視点で考えると、「その表現は事実か、意見か、演出か」を仕分けられるかが分岐点になります。 事実には根拠が要る。意見なら誰の意見か示す。演出なら演出と分かる形にする。この3分類ができれば、表示の判断はほぼ自動的に決まるんだ。
社内ルールは1枚で作る
ミドリ: うちのルール、どう作ればいいですか?
タツヤ: A4で1枚。長いものは読まれない。中身はこれだけでいい。
【必ず表示するもの】
- リアルに見える画像・動画をAIで作った場合
【必ず確認するもの】
- 数字が入っている文 → 出典を確認。なければ削除
- 効果を断定する表現 → 実績があるか確認。なければ「目安」に
【絶対にやらないこと】
- お客様の声・レビューの生成
- 実績のビフォーアフター画像の生成
- 関係者であることを隠した自社投稿
【迷ったら】
- 上長に確認。判断がつかないものは出さない
ミドリ: これなら全員が読めますね。
タツヤ(nodding): ルールの目的は制限じゃなくて、迷いをなくすこと。迷う時間が消えると、現場はむしろ速く動けるようになる。
書きすぎのデメリット
ミドリ: 最初に言っていた「書きすぎも損」というのは?
タツヤ: 3つある。
- 表示の価値が薄まる — 全部に付いていると誰も見なくなる
- 人が手をかけた仕事まで機械製に見える — 実際は人が9割書いていても、印象は逆になる
- 社内の判断力が育たない — 「とりあえず書く」は考えないのと同じ
ミドリ(thinking): 2つ目、けっこう痛いですね。
タツヤ: 痛いよ。AIを下書きに使っただけの記事に「AI生成」と書くと、読者は「中身も機械が考えたのか」と受け取る。実際は人が調べて、人が判断して、人が仕上げているのに。
ミドリ: 適切なところに、適切に書く。
タツヤ: そう。必要なところにきちんと書いてあるからこそ、表示に意味が生まれるんだ。
外注先・パートナーにどう伝えるか
ミドリ: 制作を外部にお願いしている場合は、どうすればいいですか?
タツヤ: こちらの基準を先に渡すのが基本だね。相手の判断に任せると、必ずズレる。
ミドリ: 何を渡せばいいですか?
タツヤ: さっきの1枚をそのまま渡せばいい。加えて3つだけ確認事項を足す。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| AI利用の申告 | 制作にAIを使ったか、どの工程で使ったか |
| 素材の出所 | 画像・音声・動画の入手元 |
| 権利侵害がないことの確認 | 第三者の権利を侵していないこと |
ミドリ(thinking): 使ったかどうかを聞くだけでいいんですね。
タツヤ(nodding): 禁止しないのがポイント。禁止すると隠される。申告してもらえば、こちらでリスクの高い箇所だけ重点的に見られる。
ミドリ: 相手も答えやすそうです。
タツヤ: それに、AIを使うこと自体は悪くないからね。問題は把握できていないことであって、使っていること自体じゃない。
社内の相談窓口を決める
ミドリ: 現場が迷った時は、どうすればいいでしょう。
タツヤ: 相談先を1つ決めておく。これが意外と効く。
ミドリ: 相談先ですか。
タツヤ(thinking): ルールを作っても、必ず「これはどっちだろう」というケースが出るんだよ。その時に聞ける相手がいないと、現場は「たぶん大丈夫」で進める。
ミドリ(surprised): それが一番危ないですね。
タツヤ: そう。判断に迷ったものを止められる人が1人いるだけで、事故率は大きく下がる。専門家である必要はなくて、「これは外部に確認しよう」と言える人でいい。
ミドリ: 判断できる人ではなく、判断を保留できる人。
タツヤ(nodding): いい言い方だね。「わからないから止める」と言える権限を、現場に近い誰かに渡しておく。これがルール運用の要だと思う。
まとめ
タツヤ: 今日の要点を整理しよう。
- 混乱の原因は3つの別々のルールを混ぜていること。①プラットフォーム規約 ②広告表示の適正さ ③ステマ規制
- ①はAIかどうかの話。焦点はリアルに見える画像・動画。文章は基本的に対象外
- ②はAIかどうか無関係。事実と違えば同じく問題。根拠のない数字が最大の事故要因
- ③はAIで量産できるようになったことで起きやすくなった。関係者の明示を社内ルールに
- 判断の起点は「事実・意見・演出」の3分類
- 書きすぎは損。表示の価値が薄まり、人の仕事まで機械製に見える
- ルールはA4で1枚。迷いをなくすのが目的
ミドリ(smiling): 「全部書く」でも「何も書かない」でもなく、判断軸を持つということですね。
タツヤ: そういうこと。軸があれば、新しい技術が出てきても同じ考え方で判断できる。ルールを丸暗記するより、はるかに長持ちするよ。
次のアクション
ミドリ: 何から手を付けましょう。
タツヤ: 3つ。
- 直近1か月の自社発信を見直し、数字が入っている文の出典を確認する — 確認できないものを消すだけで、リスクが大きく下がる
- A4 1枚の社内ルールを作って共有する — 表示するもの・確認するもの・やらないことの3区分
- 使っている各プラットフォームの表示規定を1回だけ読む — 半年ごとに再確認する担当を決める
タツヤ: Shimanto AI Solutionsでは、この整備を支援しているよ。
- 既存発信物の点検 — 根拠のない数値表現・断定表現を洗い出し、修正案を提示する
- 社内ルールの作成 — 現場が読める1枚に落とし込み、判断が止まらない形にする
- チェック工程の組み込み — 公開前レビューの観点と担当を、既存の業務フローに埋め込む
ミドリ: 数字の点検からですね。
タツヤ: そう。根拠のない数字を消すだけで、実は9割の事故が防げるからね。
本記事は一般的な考え方の整理であり、法的助言ではありません。個別の判断は専門家への確認をおすすめします。
参考にした情報
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