AIの文章が「間違っていないのに響かない」のはなぜ?
ミドリ: タツヤさん、AIに書かせた社内報の記事を読み返したんですけど、内容は合っているのに全然おもしろくないんです。どこがダメなんでしょう。
タツヤ(nodding): それ、すごくよく分かる。間違っていないけど、誰が書いても同じという状態だね。原因ははっきりしていて、固有性がないんだ。
ミドリ: 固有性、ですか。
タツヤ: うん。その会社にしか書けないことが1行もない。今日は、それを5分で戻す方法を話そう。
なぜ一般論になるのか
ミドリ: そもそも、なぜAIは一般的な文章を書くんですか?
タツヤ: 構造的な理由があってね。AIは大量の文章から「よくある書き方」を学んでいる。だから何も指定しなければ、平均的な文章が出てくる。それが仕事なんだ。
ミドリ(thinking): 平均を出すのが得意、ということですね。
タツヤ: そう。平均は間違いにくい代わりに、印象に残らない。ビジネス文書としては合格だけど、読んでもらう文章としては物足りない。
ミドリ: じゃあ、プロンプトを工夫すればいいんですか?
タツヤ(thinking): ある程度は効く。でも根本的には無理なんだ。AIは自社で先月何が起きたかを知らないからね。知らないことは書けない。
ミドリ: ……たしかに。
タツヤ: だからプロンプトで頑張るより、後から足すほうが速い。5分で終わるよ。
仕上げの5手順
ミドリ: その5分の型を教えてください。
タツヤ: 順番にやるだけ。上から効果が大きい順に並べてある。
手順1:数字を3つ入れる
タツヤ: まずこれ。具体的な数字を3か所入れる。
- ✕ 「作業時間が大幅に短縮されました」
- ○ 「作業時間が週7時間から2時間になりました」
ミドリ: 数字があるだけで急に本当っぽくなりますね。
タツヤ(nodding): 本当っぽい、じゃなくて本当のことを書くのがポイントね。手元にない数字を作ってはいけない。ないなら測る。測れないなら書かない。
手順2:固有名詞を入れる
タツヤ: 次に、具体的な名前を入れる。
- ✕ 「あるツールを導入したところ」
- ○ 「スプレッドシートとGASで作った簡易ツールを導入したところ」
ミドリ: 何を使ったか書くだけですね。
タツヤ: それだけ。読者が同じことを再現できるかどうかが、役に立つ文章の条件だからね。ツール名がないと再現できない。
手順3:失敗を1つ書く
タツヤ: ここが効く。うまくいかなかったことを1つ書く。
ミドリ(surprised): 失敗を書くんですか?
タツヤ: 書く。成功しか書いていない文章は、宣伝に見える。「最初は3回失敗した」「1か月間まったく使われなかった」という一文があると、急に信頼度が上がるんだ。
ミドリ(thinking): たしかに、良いことしか書いていないと逆に疑いますね。
タツヤ: そう。しかも失敗の記述は、AIには絶対に書けない。自社で実際に起きたことだからね。ここが最大の差別化ポイントだと思う。
手順4:定型表現を消す
タツヤ: AI特有の言い回しを削る。よく出るのはこのあたり。
| よく出る表現 | 対処 |
|---|---|
| 「〜が期待できます」 | 実績があるなら断定。ないなら削除 |
| 「重要です」「不可欠です」 | なぜ重要かを書くか、消す |
| 「〜と言えるでしょう」 | 断定するか、消す |
| 「近年、〜が注目されています」 | 冒頭の常套句。ほぼ全部削れる |
| 「〜することが求められています」 | 誰が求めているのか書く |
| 「様々な」「多くの」 | 具体的な数や例に置き換える |
ミドリ(smiling): 「近年、注目されています」、本当によく見ます。
タツヤ: 冒頭にこれが来る記事は、書き出しの1段落を丸ごと削っても意味が通ることが多い。試してみると驚くよ。
手順5:語尾を1つだけ崩す
タツヤ: 最後に、文章全体で1〜2か所だけ、話し言葉を混ぜる。
- 「これは本当に効きました。」
- 「正直、最初は半信半疑でした。」
ミドリ: ちょっとくだけた感じですね。
タツヤ(nodding): 全部くだけさせると軽くなるけど、きっちりした文章の中に1〜2か所だけ入ると、人が書いた感じが出る。ここは分量ではなく配置の問題なんだ。
どこまで直せばいいのか
ミドリ: 全文を書き直す必要はありますか?
タツヤ: ない。手を入れるのは全体の1〜2割でいい。目安としてはこう。
| 文書の種類 | 手を入れる割合 | 理由 |
|---|---|---|
| 社内向けの連絡・議事録 | 0〜5% | 事実が合っていれば十分 |
| 社内報・研修資料 | 10% | 固有の事例を足す |
| ブログ・SNS投稿 | 20% | 固有性が読まれる条件 |
| 顧客への提案書 | 30〜50% | 相手固有の情報が必要 |
| 経営者名義の発信 | 50%以上 | 人格が出る文章はAIに任せない |
ミドリ(thinking): 名義によって変わるんですね。
タツヤ: ここは大事でね。「誰が言ったことになるか」で必要な手入れが変わる。会社名義なら整った文章でいい。個人名義なら、その人の考えが入っていないと嘘になる。
逆にAIに任せていい部分
ミドリ: 逆に、AIのほうが得意なところは?
タツヤ: けっこう多い。ここは遠慮なく任せていい。
- 構成の設計 — 見出しの並べ方、話の順番
- 長さの調整 — 「800字に縮めて」は人間より速くて正確
- 表現の統一 — 「です・ます」の統一、表記ゆれの修正
- 箇条書きへの変換 — 長文を要点に分解する
- 別の言い方の提案 — 3案出させて選ぶ
ミドリ: 構成はAIのほうがいいんですか。
タツヤ(nodding): 論理の抜けを見つけるのがうまい。「この主張の根拠が書かれていない」みたいな指摘は的確だよ。構成はAI、中身は人間という分担がしっくりくる。
脱エンジニアの視点で考えると、「自社にしか書けないことは何か」を3つ挙げられるかが分岐点になります。 それが挙げられれば、AIの下書きは強力な土台になる。挙げられないなら、そもそも発信する内容がまだ固まっていないということだからね。
読み手によって仕上げ方を変える
ミドリ: 同じ文章でも、読む人によって直し方は変わりますか?
タツヤ(nodding): 変わる。同じ内容でも、届け方が違うからね。読み手別に足すべきものを整理するとこうなる。
| 読み手 | 足すべきもの | 削るべきもの |
|---|---|---|
| 経営者 | 金額、期間、結論 | 技術的な説明、経緯 |
| 現場担当者 | 手順、具体例、注意点 | 抽象的な効果の話 |
| 技術者 | 制約条件、根拠、前提 | 一般論、精神論 |
| 社外の初見の人 | 前提の説明、用語の定義 | 社内用語、略称 |
ミドリ(thinking): 経営者向けでは経緯を削るんですね。
タツヤ: 「どうしてこうなったか」より「で、いくらでいつまでか」が知りたい立場だからね。経緯を丁寧に書くほど、結論が埋もれる。
ミドリ: 逆に技術者には根拠を厚く。
タツヤ(nodding): そう。同じ文章を4通りに直すのは、AIが得意な作業でもある。「これを経営者向けに書き直して」と指示すれば、構成を組み替えてくれる。
ミドリ: それはAIに任せていいんですね。
タツヤ: 構成の組み替えはAI、固有の中身は人間。この分担は変わらない。中身が入った文章を、読み手別に組み替えるのが一番効率がいいんだ。
社内用語をどう扱うか
ミドリ: 社外向けの時、社内用語に気づけないことがあります。
タツヤ(thinking): 自分では気づけないんだよ。毎日使っているからね。
ミドリ: どうすればいいですか?
タツヤ: AIに「この文章の中で、社外の人が意味を取り違えそうな言葉を挙げて」と聞く。これが驚くほど効く。
ミドリ(surprised): 指摘してくれるんですか。
タツヤ(nodding): 一般的でない用語や、業界によって意味が違う言葉を拾ってくれる。「案件」「稼働」「単価」あたりは、業界外だと通じ方が違うからね。
ミドリ: これは自分では絶対に気づけないですね。
タツヤ: AIの一番の使いどころは、自分の盲点を指摘してもらうことかもしれない。書かせるより、読ませるほうが価値が高い場面は意外と多いよ。
チェックリストにする
ミドリ: 毎回覚えているのは大変そうです。
タツヤ: だから1枚のチェックリストにして、公開前に見る運用にするといい。
□ 具体的な数字が3つ以上入っているか
□ ツール名・製品名などの固有名詞があるか
□ うまくいかなかった話が1つ入っているか
□ 「期待できます」「重要です」が残っていないか
□ 冒頭の「近年〜」を削っても意味が通るか
□ 話し言葉が1〜2か所入っているか
□ この文章を他社がそのまま使えてしまわないか
ミドリ: 最後の項目が本質的ですね。
タツヤ(smiling): そこが判定基準そのものだからね。他社が社名だけ差し替えて使えるなら、その文章に固有性はない。逆に使えないなら、それは自社にしか書けない文章になっているということ。
まとめ
タツヤ: 今日の要点を整理しよう。
- AIの文章が響かない原因は固有性の欠如。AIは平均を出すのが仕事だから構造的に起きる
- プロンプトで頑張るより、後から足すほうが速い。5分で終わる
- 仕上げの型は①数字を3つ ②固有名詞 ③失敗を1つ ④定型表現を削除 ⑤語尾を1〜2か所崩す
- 失敗の記述はAIには書けない。最大の差別化ポイント
- 手を入れる割合は文書の種類と名義で変わる。個人名義は50%以上
- 構成・長さ調整・表記統一はAIに任せてよい。中身だけ人間が持つ
- 判定基準は「他社がそのまま使えてしまわないか」
ミドリ(smiling): 全部書き直すのかと思っていましたが、1〜2割でいいんですね。
タツヤ: そう。AIを下書き係、人間を仕上げ係と割り切ると、質と速度が両立する。全部自分で書くより速くて、AIに任せきりより確実に届くよ。
次のアクション
ミドリ: さっそく試してみます。
タツヤ: この3つから。
- 直近のAI下書きを1本選び、5手順を通してみる — 15分。前後を並べて読むと違いがはっきりする
- チェックリストを1枚にして共有する — 7項目。公開前に必ず見る運用にする
- 「自社にしか書けないこと」を3つ書き出す — これが今後すべての発信の材料になる
タツヤ: Shimanto AI Solutionsでは、この体制づくりを支援しているよ。
- 編集基準の策定 — 文書の種類ごとに、どこまで手を入れるかの基準を明文化する
- チェックリストの運用設計 — 公開前レビューを業務フローに埋め込み、属人化を防ぐ
- 固有情報の収集ルート整備 — 現場の数字と失敗事例が自然に集まる仕組みを作る
ミドリ: 「自社にしか書けないこと」を3つ、考えてみます。
タツヤ: それが一番の宿題だね。そこさえ持っていれば、AIは何倍にも増幅してくれるよ。
情報の時点について
本記事は執筆時点(2026年8月)における当社の編集運用に基づく整理です。手順そのものは特定のAIサービスに依存しないため、モデルが変わっても同じ考え方で使えます。