AIが自信満々に古い情報を答えるのは、なぜ?
ミドリ: タツヤさん、AIにあるツールの料金を聞いたら、はっきりした金額を答えてくれたんです。でも実際に公式サイトを見たら、まったく違っていて……。
タツヤ(nodding): よくある事故だね。AIは「知らない」と「古い」を区別できないんだ。
ミドリ(confused): どういうことですか?
タツヤ: AIにとって、学習した時点の情報は「事実」として頭に入っている。その後に変わったことは知らない。でも変わったことを知らない、ということ自体を知らない。
ミドリ(surprised): だから自信満々なんですね。
タツヤ: そう。確信度と正確さが連動していない。ここが一番危険なところでね。今日は鮮度をどう担保するかを設計の話として整理しよう。
3つの鮮度を分けて考える
ミドリ: 鮮度って、一種類じゃないんですか?
タツヤ: 3つある。それぞれ対策が違うから、まず分けることが大事なんだ。
| 種類 | 何の鮮度か | 対策 |
|---|---|---|
| ①モデルの知識 | AIが学習した時点までの一般知識 | 検索を組み合わせる |
| ②外部情報 | 世の中の最新情報 | Web検索・API連携 |
| ③自社データ | 社内の最新の状態 | 更新の仕組みを作る |
ミドリ(thinking): 分けて考えると整理しやすいですね。
タツヤ: そう。多くの現場は①だけを気にして、実は③で一番事故っている。ここは後で詳しく話すね。
①モデルの知識 — 「いつ時点か」を意識する
ミドリ: モデルの知識の鮮度は、どうすればいいですか?
タツヤ: 根本的な対策は1つ。変化する情報をモデルの記憶に頼らない。
ミドリ: 頼らない、というと。
タツヤ: 価格・仕様・法令・組織・人事。この5種類は、モデルの知識だけで答えさせない。必ず一次情報を確認する工程を入れる。
| 情報の種類 | モデルの知識に頼ってよいか |
|---|---|
| 概念の説明、考え方 | よい(あまり変わらない) |
| 一般的な手順、原理 | よい |
| 価格・料金プラン | ダメ |
| 製品の仕様・機能 | ダメ |
| 法令・制度・補助金 | ダメ |
| 企業の組織・人事 | ダメ |
ミドリ: 「概念の説明はよい」というのが救いですね。
タツヤ(nodding): AIの本当の強みは、変わらない部分にあるんだよ。原理や考え方を分かりやすく説明させるのは非常に得意。変わるものを聞くから事故るだけなんだ。
ミドリ(thinking): 用途を選べばいい、と。
タツヤ: そう。「これは変わる情報か?」と一度立ち止まるだけで、事故の大半は防げるよ。
②外部情報 — 検索させても安心ではない
ミドリ: 検索機能を使えば解決しますか?
タツヤ: 半分は解決する。でも新しい問題が生まれる。
ミドリ: どんな問題ですか?
タツヤ(thinking): 検索で拾ってきた情報が、そもそも古いという問題。
ミドリ(surprised): ……あ、そうか。
タツヤ: 検索上位に2年前の記事が来ることは普通にある。AIはそれを読んで「最新情報を確認しました」という顔で答える。検索したという事実と、情報が新しいことは別なんだ。
ミドリ: どう対策しますか?
タツヤ: 3つある。
- 一次情報を優先させる — 公式サイト・官公庁・調査元。まとめ記事は参考どまり
- 日付の明示を求める — 「その情報は何年何月時点か」を必ず出力させる
- 重要な数字は人が確認する — 価格・条件・法令は、最終的に公式ページを開く
ミドリ: 「何年何月時点か」を出させるのはいいですね。
タツヤ(nodding): これが効くんだ。日付を書かせると、AI自身が根拠の弱さに気づくことがある。「時点が不明」と出てきたら、それは信頼できない情報だと分かる。
③自社データ — ここが一番事故る
ミドリ: 3つ目が本命だと言っていましたね。
タツヤ: そう。社内文書をAIに読ませる仕組みを作った会社で、一番多い事故がこれなんだ。
ミドリ: どういう事故ですか?
タツヤ: 古い社内文書を根拠に、AIが自信満々に答える。
- 2年前の価格表を読んで、旧価格を回答する
- 廃止された申請手順を案内する
- 前の組織体制の担当者名を答える
ミドリ(surprised): これ、外部情報より深刻ですね。社内の人は信じてしまいます。
タツヤ(nodding): そこなんだよ。「社内の資料に基づいています」と言われると、疑わない。外部情報なら「一応確認しよう」と思うのに。
対策は「文書側」に入れる
ミドリ: どう防げばいいですか?
タツヤ: AIの側ではなく、文書の側に仕掛ける。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 有効期限を書く | 文書の冒頭に「有効期限: 2026-12-31」を入れる |
| 版と更新日を必ず入れる | 「第3版 2026-07-01改定」 |
| 旧版は参照対象から外す | アーカイブフォルダに移し、検索対象に含めない |
| 期限切れを検知する | 期限を過ぎた文書を月次でリストアップする |
ミドリ: 「旧版を検索対象から外す」が地味に重要そうですね。
タツヤ: 一番重要かもしれない。多くの現場では、旧版がフォルダに残ったままAIの参照対象に入っている。新旧が両方ヒットして、AIが古いほうを採用することが普通に起きるんだ。
ミドリ(thinking): ファイル名に「_old」と付けて残していました……。
タツヤ(smiling): どこの会社でもやってるよ。人間は「_old」を見て判断できるけど、AIは中身しか読まない。だから物理的に別の場所へ移す必要があるんだ。
出力に鮮度を書かせる
ミドリ: 使う側でできる工夫はありますか?
タツヤ: ある。回答に必ず出典と時点を書かせる形式にしておく。
【回答フォーマットの指定例】
回答:
(本文)
根拠:
- 参照した文書名 / 更新日
- 参照したURL / 確認時点
注意:
- この情報が古い可能性がある場合はその旨を明記すること
- 確認できなかった項目は「不明」と書くこと
ミドリ: 「不明と書くこと」を指定するんですね。
タツヤ(nodding): これが大事でね。指定しないと、AIは空欄を埋めようとする。「不明でよい」と明示すると、素直に不明と書いてくれるようになる。
ミドリ(thinking): 埋めなくていいと伝える。
タツヤ: そう。AIの誠実さは、指示で作れる部分があるんだ。
脱エンジニアの視点で考えると、「その情報は何日経ったら嘘になるか」を業務ごとに言えるかが分岐点になります。 経営理念は10年変わらない。価格表は1年で変わる。在庫数は1時間で変わる。この感覚は業務を知っている人にしかないからね。
業務別の鮮度要件
ミドリ: 業務によって必要な鮮度も違いますよね。
タツヤ: 違う。整理するとこうなる。
| 業務 | 許容できる古さ | 必要な仕組み |
|---|---|---|
| 社内制度の問い合わせ | 1か月 | 文書の版管理 |
| 商品の価格・在庫の回答 | リアルタイム | 基幹システムとの連携 |
| 顧客対応履歴の参照 | 1日 | 日次同期 |
| 業界動向の調査 | 3か月 | 検索の併用 |
| 概念や手順の説明 | 1年以上 | 特になし |
ミドリ: リアルタイムが必要なものは、仕組みが重くなりますね。
タツヤ(nodding): だから「本当にリアルタイムが必要か」を先に確認する。在庫数を答える必要があるのか、それとも「在庫は基幹システムでご確認ください」と案内すれば済むのか。
ミドリ: 案内で済むなら、そのほうが安全ですね。
タツヤ: 答えないという選択肢を最初から用意しておく。これが鮮度設計でいちばん実務的な判断だと思う。
よくある失敗
ミドリ: つまずきやすいポイントも教えてください。
タツヤ: 4つある。どれも現場でよく見る。
- 「最新情報を調べて」と書けば新しくなると思っている — 検索するかどうかと、拾った情報が新しいかは別
- 文書に更新日を書いていない — AIが古さを判断する手がかりがゼロになる
- 一度作った参照データを更新していない — 半年前の状態で止まっている
- 回答が正しいかを月次で確認していない — 静かに間違い続ける
ミドリ(thinking): 4つ目、気づけないですよね。
タツヤ(nodding): 気づけないのが一番怖い。だから定点確認を仕組みにする。
ミドリ: どうやるんですか?
タツヤ: 代表的な質問を10個決めて、月1回投げて答えを保存する。前月の答えと見比べて、変わっていないか、間違っていないかを見る。
【定点確認の質問例】
- 「Aサービスの料金プランを教えて」
- 「経費精算の申請手順は?」
- 「○○の担当部署はどこ?」
- 「今期の重点方針は?」
ミドリ: 10分もあれば終わりそうですね。
タツヤ: 月10分で、社内AIが嘘をついていないかが分かる。これほど費用対効果の高い運用はなかなかないよ。
誰が確認するか決める
ミドリ: 担当は誰がいいですか?
タツヤ(thinking): その情報の持ち主が確認するのが理想だね。経費精算の回答なら経理、人事制度なら人事。
ミドリ: 情シスがまとめてやるのではなく。
タツヤ: 情シスは正しさを判断できないんだよ。仕組みは作れても、「この回答が今の制度と合っているか」は分からない。内容の正しさは、業務の持ち主にしか判定できない。
ミドリ(thinking): 役割分担ですね。
タツヤ(nodding): 仕組みは情シス、中身は現場。ここを混ぜると、どちらも責任を持てなくなる。月10分を各部署に1つずつ持ってもらう、くらいの分担が現実的だと思う。
まとめ
タツヤ: 今日の要点を整理しよう。
- AIは「知らない」と「古い」を区別できない。確信度と正確さが連動していない
- 鮮度は①モデルの知識 ②外部情報 ③自社データの3つに分けて考える
- 価格・仕様・法令・組織・人事はモデルの知識に頼らない。概念や手順は頼ってよい
- 検索させても拾った情報が古いことがある。一次情報優先・日付明示・人の確認
- 一番事故るのは③自社データ。社内資料は疑われないぶん被害が大きい
- 対策は文書側に。有効期限・版と更新日・旧版の分離・期限切れ検知
- 「_old」は人間にしか通じない。旧版は物理的に参照対象から外す
- 出力に出典と時点を書かせる。「不明と書いてよい」と明示する
ミドリ(smiling): 鮮度って、AIの性能の話だと思っていました。
タツヤ: そこが今日いちばん伝えたかったところ。鮮度は仕組みの問題なんだ。どんなに高性能なAIでも、古い資料しか渡されなければ古い答えを返す。逆に言えば、渡す情報を整えれば、今のAIのままで解決できるということでもあるよ。
次のアクション
ミドリ: 何から手を付けましょう。
タツヤ: 3つ。
- AIに参照させている社内フォルダを開き、旧版を別の場所へ移す — 1時間。効果が一番大きい
- 主要な社内文書に「更新日」と「有効期限」を入れる — まず10本だけでいい
- 回答フォーマットに出典と時点の記載を追加する — 「不明でよい」の明示も忘れずに
タツヤ: Shimanto AI Solutionsでは、この設計を支援しているよ。
- 参照データの棚卸し — AIが読んでいる社内文書を洗い出し、旧版と現行を分離する
- 鮮度要件の定義 — 業務ごとに許容できる古さを決め、必要な連携範囲を見極める
- 出力形式と検証工程の設計 — 出典・時点の明記と、人の確認を挟む箇所を業務に組み込む
ミドリ: 旧版の分離からですね。
タツヤ: そう。掃除から始めるのが、いちばん効果が出やすい。新しい仕組みを足す前に、まず古いものをどけよう。
情報の時点について
本記事は執筆時点(2026年8月)における当社の運用に基づく整理です。モデルの学習時点や検索機能の挙動はサービスとバージョンで異なるため、実際の鮮度要件は利用中のサービスの公式ドキュメントで確認してください。本記事自体も、この原則に従って更新日を frontmatter に記録しています。