2行のプロンプトで映画のようなカットが出る時代、仕事はどう変わる?

ミドリ: タツヤさん、SNSでAIが作った動画が流れてきて驚いたんですけど、あれって本当にプロンプトだけで作っているんですか?

タツヤ(nodding): 作ってるよ。2026年に入ってから動画生成AIの品質が一段跳ねてね。海外の映像作家がわずか2行のプロンプトで有名俳優の格闘シーン風の映像を作ってXに投稿したら、数千万回再生されたという話が話題になった。

ミドリ(surprised): 2行……。

タツヤ: ただ、今日話したいのは「すごい」で終わらせない部分。うちみたいな会社が、明日から仕事で使えるのはどこまでかという線引きだね。

何ができるようになったのか

ミドリ: そもそも、以前と何が変わったんですか?

タツヤ: 大きく3つ。

ミドリ(thinking): 音まで出るんですか。

タツヤ: そこが実務では大きくてね。音の制作は動画制作コストのかなりの部分を占める。ナレーター、効果音の選定、BGMのライセンス。ここが同時に片付くのはインパクトがある。

ミドリ: 主要なツールはどのくらいあるんですか?

タツヤ: 主要どころだけで複数ある状態で、しかも数ヶ月単位で順位が入れ替わる。だから特定のツールを覚えるより、使いどころを覚えるほうが賢いと思う。

業務で使える用途・使えない用途

ミドリ: 使いどころ、というと?

タツヤ: うちが支援先に出している仕分けはこう。

用途判定理由
SNS向けの短尺告知動画使える尺が短く、多少の粗が許容される
商品イメージの雰囲気カット使える実物そのものを写す必要がない
社内研修・マニュアルの導入映像使える外部に出ないため権利リスクが低い
企画提案のイメージ動画(絵コンテ代わり)最適捨てる前提で作れる
実在する自社商品の紹介条件付き実物と細部が変わると誤認を招く
人物が話す説明動画条件付き顔と声の権利処理が必要
実績・お客様の声の再現使えない事実の捏造になる
効果を示す前後比較使えない景品表示法上のリスクが高い

ミドリ(thinking): 「捨てる前提で作れる」が最適なんですね。

タツヤ: そこがいちばんコスパがいい。企画段階のイメージ動画って、今までは口頭とラフ画で説明していた。それが動く映像で見せられるようになると、社内の合意形成が一気に速くなる。

ミドリ: 完成品じゃなくて、途中の道具として使うと。

タツヤ(nodding): そう。完成品として使おうとすると権利と品質の壁にぶつかるけど、検討の道具として使う分には壁がほとんどない。ここを間違える会社が多いんだ。

実物と違うものを作ってしまうリスク

ミドリ: 「実在する自社商品の紹介」が条件付きなのは、なぜですか?

タツヤ: AIはそれらしいものを作るのが得意で、そのものずばりを作るのは苦手だから。

ミドリ: 具体的には……。

タツヤ: たとえば自社製品のパッケージを写した映像を作らせると、ロゴの文字が微妙に崩れたり、色味や形が実物とずれたりする。これがそのまま広告に出ると、実物と違うものを見せたことになる。

ミドリ(surprised): それは怖いですね。

タツヤ: 商品の性能や効果を映像で示す場合はもっと厳しい。実際にはない効果を映像で見せれば、それは景品表示法の問題になりうる。AIで作ったかどうかは言い訳にならない。

ミドリ: じゃあ、実物が絡むところは実写ということですね。

タツヤ: 商品そのものは実写、周辺の雰囲気はAI。この組み合わせが今のところ現実的だと思う。

権利の考え方

ミドリ: 生成した動画の権利って、どうなるんですか?

タツヤ: ここは2つに分けて考える必要がある。

タツヤ(thinking): ひとつは自分が作ったものに権利が生まれるか。もうひとつは他人の権利を侵していないか。まったく別の問題なんだ。

自分の生成物に権利は生まれるか

タツヤ: 日本の考え方としては、簡単な指示でぽんと出てきたものには著作権が認められにくいとされている。一方で、構図やスタイルを細かく指定し、出力を選別して加工した場合は、創作性が認められる余地がある。

ミドリ: 手をかけた度合いによる、と。

タツヤ(nodding): ざっくり言えばそう。だから業務で使うなら、プロンプトと選定・編集の記録を残しておくといい。後から「どう作ったか」を説明できる状態にしておくのが実務上の防御になる。

他人の権利を侵していないか

タツヤ: こちらのほうが実は重要でね。実在する人物の顔、既存キャラクター、他社のロゴ。これらが出力に混ざったものを公開すると、権利の問題が発生しうる。

ミドリ: 意図せず似てしまうこともありますよね。

タツヤ: ある。だから公開前に人間が必ず見る工程を外さない。「有名人に似ていないか」「既存作品の特徴的な要素が入っていないか」を確認する。この確認を省いた瞬間に事故る。

ミドリ: 生成が速いと、確認を飛ばしたくなりそうです。

タツヤ: そこが罠なんだ。生成が10秒でも、確認は10分かける。ここは効率化してはいけない工程だと割り切ったほうがいい。

AI生成であることの表示

ミドリ: 「AIで作りました」と書く必要はありますか?

タツヤ: 主要なSNSプラットフォームは、リアルな映像や画像をAIで生成・改変した場合の表示を求める方向で運用している。表示を怠るとアカウントへのペナルティにつながる可能性もある。

ミドリ: 明示したほうが安全なんですね。

タツヤ(nodding): それに、隠していたことが後から分かるほうがダメージが大きい。最初から「AI生成」と書いておけば、そもそも問題にならない。表示は制約ではなくリスク回避のコストだと考えるといい。

脱エンジニアの視点で考えると、「その映像が事実を主張しているかどうか」を判断できるかが分岐点になります。 雰囲気を伝えるだけの映像なら自由度は高い。でも「この商品はこう動きます」「こういう効果があります」と主張した瞬間に、それは事実の表明になる。この線引きは技術ではなく業務判断だからね。

費用と時間の目安

ミドリ: コスト面ではどのくらい変わるものですか?

タツヤ: ざっくりした構造で言うと、こうなる。

制作物従来AI活用時
提案用イメージ動画外注で数十万円・2週間数時間・ツール利用料のみ
SNS向け短尺動画外注で数万円〜・数日1〜2時間
商品の実写紹介動画外注従来どおり(実写が必要)

ミドリ: 全部が安くなるわけではないんですね。

タツヤ: そこは正直に伝えたい。AIが効くのは「実物を写す必要がない領域」だけ。実物・実在の人・実際の効果が関わるところは、今までどおりの手間がかかる。

ミドリ(thinking): じゃあ、まず提案用から始めるのがよさそうですね。

タツヤ: それがいちばん安全で、効果もわかりやすい。社外に出ないものから始めるのが鉄則だよ。

始め方

ミドリ: 具体的にはどう進めましょう。

タツヤ: 3段階でいい。

  1. 社内用から — 研修動画、提案のイメージ映像。外に出ないので権利リスクが低い
  2. 社外向けだが事実を主張しないもの — 雰囲気カット、告知動画。AI生成である旨を表示する
  3. 商品に関わるもの — 実写と組み合わせる。AI部分は背景・雰囲気に限定する

ミドリ: 段階を踏むんですね。

タツヤ: 各段階で「事故らなかったか」を確認してから次に進む。動画は文章と違って、間違いが拡散した時の取り返しがつかないからね。

プロンプトより先に絵コンテを書く

ミドリ: 実際に作る時、プロンプトはどう書けばいいんですか?

タツヤ(thinking): ここでよくある失敗が、いきなりプロンプトを書き始めることなんだ。

ミドリ: 違うんですか?

タツヤ: 先に絵コンテを書く。紙に手書きでいい。何秒目に何が映って、どんな音が鳴るか。これを決めてからプロンプトにする。

ミドリ(thinking): 順番が逆になりがちですね。

タツヤ: プロンプトから始めると、出てきた映像に引きずられるんだよ。「これはこれで良いかも」と思っているうちに、当初の目的から離れていく。目的地を決めずに走り出すと、着いた場所を目的地だと思い込む

ミドリ: 生成が速いぶん、流されやすいと。

タツヤ(nodding): そう。だから絵コンテを合格基準にする。出てきた映像が絵コンテと合っているかで判断すれば、迷わない。

プロンプトの構成要素

タツヤ: 絵コンテができたら、こういう要素に分解して書く。

要素書く内容
被写体誰が・何が映っているか
動き何をしているか。カメラの動きも
場所と時間屋内外、時間帯、天候
画づくり明るさ、色調、レンズ感
セリフ、環境音、BGMの雰囲気
何秒か

ミドリ: 意外と細かく指定するんですね。

タツヤ: 曖昧にすると、毎回違うものが出てくるからね。特に尺の指定は忘れられがちだけど、SNS用なら15秒、説明用なら60秒と決めておかないと、使えない長さのものが出てくる。

何回で妥協するか決めておく

ミドリ: 一発で思い通りになりますか?

タツヤ(smiling): ならないよ。3〜5回は作り直すつもりでいい。ただ上限を決めておくのが大事でね。

ミドリ: 上限、ですか。

タツヤ: 10回試して思い通りにならなければ、その表現はAIには難しいと判断して、別の見せ方に切り替える。粘り続けると、外注したほうが安かったという結果になる。

ミドリ(thinking): 撤退ラインを先に決めておくんですね。

タツヤ: そう。生成が安いからこそ、無限に試せてしまう。時間のほうが高いということを忘れないようにしたい。

まとめ

タツヤ: 今日の要点を整理しよう。

ミドリ(smiling): 「すごい技術」の話じゃなくて、「どこまでなら使っていいか」の話なんですね。

タツヤ: そこが実務。作れることと、出していいことは別。この距離感を最初に持っておくと、安心して活用の幅を広げられるよ。

次のアクション

ミドリ: まず何から試しましょう。

タツヤ: この3つから。

  1. 次回の企画提案で、イメージ動画を1本だけ作ってみる — 社内向けなので事故らない。合意形成が速くなるかを体感する
  2. 社内の「AI生成物チェックリスト」を5項目で作る — 実在人物・既存キャラ・他社ロゴ・事実の主張・表示の有無
  3. プロンプトと出力の記録を残す運用を決める — どこに保存するかを決めるだけでいい

タツヤ: Shimanto AI Solutionsでは、この領域の支援をしているよ。

ミドリ: 社内向けから、ですね。

タツヤ: そう。外に出す前に、社内で失敗しておくのがいちばん安い勉強になるよ。


参考にした情報

執筆時点(2026年8月)に確認した資料です。動画生成AIは更新が速いため、機能と料金は各サービスの公式情報をご確認ください。

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